実に奥の深い「膝関節」

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 僕の診察室の中の一冊で今でも大切にしている本があります。膝の専門書で『膝関節損傷の臨床診断法』。シュプリンガー・フェアラーク東京という耳慣れない会社が1993年に出した翻訳本です。ドイツ人、シュトローベル医師とシュテットフェルト医師の共著。その当時でも18000円もしました。今は絶版になってしまって入手すること事態が困難な本になってしまいましたが、僕は医学書というジャンルを超えてこの本を読み感動してしまいました。

 内容は膝関節に関するものなので、興味がなければひとつも面白くないわけですが、そのかわり徹底した解剖と機能の解説はまさに「これぞ自然科学」と言える精神が伝わってきます。これまでに何冊もの膝やそれ以外の人体に関する専門書や医学書を読んできましたが、ここまで深く人体を観察した本を僕はこれ以外に今現在まで知りません。
「西洋医学はここまで人の身体を観察していたのか」というくらい精密な観察はそれまでのどの解剖書にも書かれていなかった小さな靭帯についてまで細述されていました。それは膝の外傷を治療する上で著者たちが必要と認めたものだったのです。「僕が教えられて知っている膝関節は膝関節のすべてではなかったのか。」このことにまず衝撃を受けました。そしてこの本のおかげで超音波画像検査が描出する膝の細かな物体が初めてすべてクリアに理解することが出来るようになったのです。この著者たちの洞察力観察力にこの後何年もしてから僕は再度改めて驚かされることになります。

 今現在、僕は膝関節の疾患を下肢全体をひとつのユニットとして観察しています。その理由はこれまでに徐々に紹介してきましたバイオメカニクスという関節運動学のデータに基づいています。細かい話を避けて大雑把に解説すると膝関節は日常動作のなか単体で動くことはなく、常に股関節・足関節と連動して動く関節であるからです。さらに最近の研究で股関節は骨盤の関節(仙腸関節)の動きの延長にあることが分かってきており、そう言う意味では骨盤も含めた下肢の動きに注目して治療する必要があるということなのです。

 こういう考え方は先ほどの本のように膝関節のなかにフォーカスしていく西洋医学と一見違うように思えますが、実は根っこの部分でつながっていまして、細かく観察すればするほど全体の動きを考えざるを得なくなるのです。

 これまで膝の疾患はレントゲン検査で骨の状態を観察し、骨の変形があれば「変形性膝関節症」と診断され、「あなたの膝の痛みは骨が変形したことが原因ですよ」と言われてきました。ところがもう数年前になるのですが学会でその診断に疑問を呈した先生が現れたのです。「膝の変形が原因ならば、動いた時に常に痛みを感じるはずなのに、動き出しだけ痛くて、少し動くと痛みが楽になるのはどうしてか。」というのがその趣旨です。そこでこの研究グループは何人もの患者さんの歩行開始時からの動きをビデオで撮影し、膝の動きを解析ました。この研究で動き出した膝に「側方動揺」という奇妙な動きの乱れがあることがわかりました。膝の横揺れです。このために膝の内側に強い圧力がかかり痛みが出ていることもわかりました。さらにその横揺れは膝の外側から後ろにつく小さな膝窩筋を中心とした外側支持機構と呼ばれる筋腱靭帯群が損傷することによって起きることも分かってきたのです。
 細かい筋肉や腱、そして靭帯が折り重なるようにして膝の裏を支えてくれています。ここは膝関節に他所からの力が僅かでも加わると真っ先に膝を支えるために緊張する構造になっています。それが外側支持機構と呼ばれる部分です。最近のスポーツ医学のドクターのサイトを見ると、膝の重篤な怪我した患者さんのほとんどにこの部分の靭帯損傷が見られると報告されていました。このドクターはさらにこの損傷した小さな靭帯を修復しておかないと半月板や十字靭帯だけを修復しても機能回復として不完全だと述べておられます。
 この外側部分は股関節とつながる臨床上重要な筋肉と密接につながっています。さらに足関節へ伸びる筋肉もここからスタートしていきます。まさに下肢全体につながる重要な中継地点なのです。
 その中継地点が壊れれば当然股関節や足関節との連動性が失われて動きに異常が現れます。その状態がいつまでも続けばそのほかの大きな靭帯や半月板、さらには骨も変形するでしょう。

 このことを知ってから僕は膝を痛めて来た患者さんすべての外側支持機構を画像検査するようにしました。そうです、あの『本』に書かれていた小さな靭帯を中心にした支持機構です。そうするとさらにわかってきたことがありました。下半身を支えてくれている筋肉が硬くなったりしてもこの部分にストレスがかかるようになるのです。
 つまり、怪我といえないような筋肉や腱の炎症でも膝は悲鳴を上げ始め、その悲鳴を上げた膝関節は早かれ遅かれこの外側支持機構に炎症がはじまり、それを超えるといよいよ半月板や骨に負担がかかり、最終的には骨の変形へと繋がっていくようです。

 ですから、当院では膝の疾患はまず膝を丁寧に観察し、どこに異常があるのか損傷部位を徹底的に探し出す努力をします。必要ならレントゲンやMRIを他の医療機関にお願いして取ってもらいます。それに基づいて治療箇所を特定し、そこが壊れてしまった原因となる他の関節との連携に異常がないかを考慮するというスタンスで診療しています。

 20年前に僕に本当の医学の世界を見せてくれたきっかけの本は今でも僕を自然科学の世界へ誘って離しません。そのおかげで人体という不思議な世界のとりこになっているのです。


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