カラダのツボの使い方

ツボの取り方 
 鍼灸師にとって何にもまして大切なのは鍼やもぐさではなくて「ツボの取り方」です。
今日はそんなツボにまつわるお話しをしたいと思います。

 世の中にツボの本はいっぱい出ています。
僕もこれまでにどのくらいツボに関する本を読んできたことでしょうか。
読んでいるとどれもみんな使いたくなっちゃう。
「なんのツボは何に効く」と書かれていると「すごいなあ」と感心するばかり。
開業間もない頃は、勉強すればするほど鍼の本数が増えていきました。
「そうだ、これもあれも使ってあげよう」って思うわけです。
修行中も先生に「自分がここだと思ったところがツボだ」と言われていたので、特に鍼の本数にはこだわらず、必要と思われるところには心を込めて鍼やお灸をしていました。

 ところが、治療成績は鍼の本数と比例していないことに気がついたのです。
むしろ、鍼をし過ぎた事による揉み返しのような状態になる患者さんが増えてしまいました。
 「どうも気持ちだけでいたずらに鍼を増やしてはいけないようだ。」このことに薄々気がつきはじめた僕は、単にツボだけを勉強するのではなく、からだ全体をどう見るべきなのかをもう一度考え直すべく古典をまじめに勉強し始めます。
 すると古典にちゃんと書いてあったのです。
「痛いところばかりに囚われず、体をよく見て的確にツボを探り施術するのが極意です。」と黄帝内経という聖典(紀元前に編纂されています)の最初に書かれているのです。
学生時代は臨床体験がないのでなんのことやらさっぱり分からず仕舞いでしたが、臨床してみるとこの意味がよくわかるようになりました。

 それからです、はり灸治療の本質を知るべく難経(鍼灸の極意書)を先生について臨床に即して勉強し出したのは。

 人の身体は物質面とエネルギー面という多様性を持って存在しています。
これを巧みに利用し、人の心体を良い方向に向けようと試みるのがツボ刺激です。
ツボはエネルギーと物質に効果的に変化を与えられる場所です。
 これには何千年という年月をかけて検証されてきたデータの裏付けがあり、今現在も臨床を通して検証され続けています。治療効果が認められなければ誰も鍼やお灸を受けたいとは思わなくなるわけですから、それは厳しいものです。
 
 この効果的に心体に変化を与えるためには場所も大事ですが、刺激する方法も大事になります。身体が変化するためには適度な刺激でなくてはならないのです。
 強過ぎても弱過ぎても変化は得られません。
 
 このことを2000年も前の人たちは熟知していたのです。
 
 僕はそのことを丁寧に教わりながら追従していきました。
最初は何十本も使っていた鍼を数本にすることにためらいがありましたが、やってみると嘘のように効きます。

 唾石症という顎の下にある唾液腺に石が詰まってしまう疾患の患者さんに背中に数箇所鍼をしただけでしかもほぼ1回の治療で痛みが取れてしまったときは、僕のほうがビックリしました。

 いまも古典や中医学を学びながらこうして追従しているところですが、これまでのところを皆さんがご自分でツボ刺激するときの参考になるようにまとめてみると、

1.刺激するツボは少ないほうが一つ一つのツボの効果が身体全体に及んでいく。
2.ツボ刺激は体力に合わせて増減する。自分でする場合は特にやりすぎに注意。
3.刺激しても期待した変化が見られないときは、ツボの位置、刺激の仕方、刺激量を再検討する。やさしく刺激したほうが効果も高いときがある。
4.ツボは気になるところ、張っているところ、痛いところばかりではない。むしろ押して気持ちいい、イタ気持ちいいところを探してみる。
5.効果が高いツボは全身にあるが、自分でも刺激しやすい手先や足先にも多くある。

 5千年前の原始人が1995年突然アルプスの氷河の割れ目から発見され、最近も話題になりました。アイスマンと命名された白人の祖先は氷付けだったために皮膚も内臓器も髪の毛もすべて原形を留めていたのです。検査の結果、胃潰瘍を患っていたことも分かっています。その彼の皮膚には石を押し当てたような痕があり、どうも胃の痛みを抑えるためにツボ刺激をしていたのではとヨーロッパの学者が発表しています。

 そうだとすると、ツボ刺激は東洋人に限らず全人類の歴史的遺産だった。なんか壮大な物語を感じます。



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