僕が大好きなツボ

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 僕は鍼灸師なのでツボを刺激して生体に反応を引き起こしカラダに変化が起きるのを確認するという行為を行っています。このときかならずしも良いことばかりが起きるとは限らないので、自分が患者さんに行った治療を慎重に確認します。この際、患者さんのカラダの反応にバイアスをかけないように努力しています。「こうなるだろう」「こうなってほしい」というような自分の思いがいちばん治療の判断の妨げになっていると経験上理解しているからです。

 鍼灸は物理的刺激を身体に与えてそれに対して生体が示す反応を2000年以上(成書が出来上がる前からの蓄積を考えると4000年以上の年月)をかけてまとめ、後世に伝えてられてきた人類遺産的医学です。
 その一番の財産がツボになると思います。全身に分布するツボにはそれぞれに名前がつけられています。このツボ名は中国から伝わったものでそのため当用漢字にないものが多く非常に読みにくいのですが、ひとつひとつを読み解くと先人がそこに込めた思いが2000年の月日を越えて伝わってきます。

 たとえば、ぼくが最近自分に鍼をする時によく使うお気に入りのツボはおへそのすぐ脇1センチほどにある「肓兪(こうゆ)」。なんでこのツボかというと、おなかは自分で触り易いし、自分で押してみたら気持ちが良かったといういたって生理的根拠からなのですが、むかし先輩からここはおなかの凝りが始まるところだと教わりました。「おなかも凝るの?」と不思議に思われるかも知れませんが、日本の漢方ではおなかの診察をとても重要視しています。
 触ったときに適度にしっとりとした弾力のあるおなかが理想とされています。おなかが硬すぎたり、肌がカサカサしてつやがない、押してもべこべこと沈んで弾力がないというのはあまり良くないのです。そういうおなかの変調が真っ先に現れるのがこの肓兪(こうゆ)というわけです。

 このツボの意味を漢字から分析すると大変興味深いことが見えてきます。まず「肓」という字は「むなもと」を意味しています。心臓の下、横隔膜の上の部分を指しています。「兪」は諸説あるようですが、木を刳り抜いて船を造る意を持ち、「ぬき出す」「応える」さらに「治る」「癒える」という意味にもなります。つまり「むなもとに応える」「胸もとを癒す」という意味でしょうか。この解釈はおそらく施術者の数だけ意見があるかと思いますが、僕自身の鍼の体験としては腰にも鍼の影響が来ますがまさに胸もとに響く感じがしました。
 おへそに鍼をして胸もとに響くというのも不思議な気がしますが、実はこの真下には腹部大動脈という心臓循環器にとって大変重要な太い血管が通っています。またその腹部大動脈はこのおへその辺りから左右に分かれて股関節動脈になるのです。川の流れでもそうですが、一本だったものが二本に分かれるとき、流れが乱れるために血管に負担がかかるところでもあるのです。ですからここが硬くなったりするとその大元の心臓にも当然負担がかかります。
 また、さらにその奥には大腰筋小腰筋といわれる背骨のおなか側に付く深層筋が股関節に向かって走行しています。この筋肉はちょうどみぞおちの高さから背骨に付いています。横隔膜よりも奥に、そして横隔膜より上に入り込んでいるのです。まさに心臓の下です。(余談ですが、先週お伝えした姿勢矯正体操はこの筋肉をストレッチすることを狙っています。)こうした解剖学的考察からもこのおへその横のツボ名には碩学の先人の潜考思量が伝わってきます。
 実はこのツボは臨床上足腰の冷えや痛みを取る重要なツボとしても使われています。漢方では腰から下を腎の領域としていますから、ここを腎経の募穴(気があつまるところ)として最重要視して使うのです。実際ここに鍼を受けてみるとわかりますが、おなかに鍼をしているのに本当に腰や背中に、さらに胸にまで鍼をされたような感覚が現れます。人の身体とは本当に不思議なものです。
 僕が鍼灸師になって良かったなと思えるのはこういった人類遺産を自分のからだや患者さんと一緒に味わえることです。この偉大な遺産を受け継ぐものとなったことの責任の重さは当然ですが、この叡智を一人でも多くの人に体感してもらえるように日々の診療を重ねていきたいと思います。

三勝はり灸接骨院HP:http://www.3show-hari9.com/
 



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