今日は人が人を癒すマッサージについてです。
昔、ベテランの内科の先生にお腹を触ってもらって脈を診てもらっただけなのにすごく気持ち良かったことがありました。「この先生はいっぱいひとを診てきた人だな」とほとんど直観みたいにその手の感触から感じたものです。安心感に包まれてそれだけで癒された気分でした。自分は今だにその領域に達しているとはとても思えませんが、いつかそんな手になりたいなあと毎日思って治療しています。
マッサージを科学的に言ってしまえば、皮膚というか細胞に与えた振動なりの物理的刺激によって細胞内に引き起こされる化学変化によって治癒に至る行為ということになります。研究者に言わせればこれ以上でもこれ以下でもないのです。たしかに身体の細胞に起こっている変化だけをとらえればその通りなのでしょう。
でも、僕の個人的な体験からするとそれだけではどうしてもあの先生の手の気持ち良さは説明つかないです。今日はその辺りの僕なりの考えをお話してみたいと思います。
哺乳類がする行為でよく目にするのがお互いに毛繕いをするグルーミングです。身体に付いたノミやダニを取ってもらい、健康を保つために、集団で行動するためお互いを確認するために行っていると言われています。
人間も原始のころからおそらく頻繁に行ってきたはずです。さすがに今お互いにノミやダニを取る必要はないわけですが、そのかわりみんなで楽しく飲みに行って話をする、カラオケをする、遊びに行く、家族と団らんするという行為がグルーミングの一種になっているそうです。
このとき、脳内にオキシトシンというホルモンが分泌されています。このホルモンの作用をまとめると次のようになります。
1.人への親近感、信頼感が増す。
2.ストレスが消えて、幸福感が増す。
3.血圧の上昇を抑える。
4.心臓の機能を良くする。
5.長寿になる。
このような働きからオキシトシンは「幸福ホルモン」とも呼ばれています。
僕は気持ち良いマッサージにはこのオキシトシンが関わっていると思っているのです。
こういう研究がなされたという文献を読んだことがないので推論でしかないのですが、自分が病院に行って診察してもらうときでも、何に一番反応しているかといえば先生の応対です。目も合わせずに診察されているとやっぱり不安になります。
マッサージは目を合わせながらするわけではありませんが、身体に触れている感覚が視覚の代わりになっているコミュニケーションだと思います。
この触覚というのはときに視覚や言葉以上の情報伝達受信ツールになります。触れることで相手のからだの情報が密に入ってきますし、こちらの技量もバレバレになります。
こういう一種のコミュニケーションが成立すると体内に先のホルモン「オキシトシン」が分泌されてくるのではないでしょうか。
そう考えると最初に登場していただいた内科の先生の触診も説明が付く気がします。あの先生は一瞬で僕を納得させてくれたわけです。
オキシトシンは脳内で合成されて分泌される9つのアミノ酸からなるホルモンです。分泌調節にはまだまだ分からないことが多いのですが、そのオキシトシンの刺激を受けとめる受容体は中枢神経以外でも、腎臓、心臓、膵臓、脂肪組織などでその発現が確認されています。脳内から分泌されたこのホルモンはほぼ全身に影響しているわけです。ですからマッサージが気持ち良いというのはこういう要素が含まれていると思うのです。
技術も知識もいまひとつのぼくが何とか治ってもらいたくて患者さんの前でもがいている時にもこの奇跡のホルモンが出て来て患者さんを治してくれていることを祈っています。
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