首はやじろべえの心棒に例えることができます。
まず頭の重みを下で支える役割りがあります。
さらに両腕を吊っている役割りもあります。
どういうことかというと腕は肩甲骨についているのですが、肩甲骨そのものは鎖骨と筋肉によって背中に位置しているだけです。その鎖骨も胸の前ある骨、胸骨に乗っているだけで、実際には首の筋肉に吊ってもらっています。つまりこの肩甲骨や腕を上にひっぱるように支えているのは首につながるからだの前後の筋肉なのです。両腕と肩を吊っている中心に首が位置しているわけです。
頭の重さは成人の場合体重の10~13%と言われていますから、体重60キロの人は6~8キロあることになります。(この割合に頭は体重の7%という説もありますが、出所がアメリカのデータなので人種的な違いがあるように思い、こちらは採用しませんでした)
いっぽう腕は6.5%と言われていますから、3.9キロ約4キロあることになります。
とすると、体重60キロのひとの首はおよそ16キロの重さのものを支えていることになります。
前回ご紹介した4名の症例で首にさまざまな障害が生まれる素因はこんなところにあると僕は思っています。
それでは首を傷めるとどんな症状が出てくるのでしょうか。
もう一度おさらいで前回の4症例を症状だけ取り上げて表にまとめてみましょう。
主訴 | 動作確認 | 首以外の周辺症状 | |
症例1
18歳
|
首と左肩の痛み | 首の前後の動きで痛み出現 手にもシビレが出てくる。 |
頭痛、腹痛 |
症例2 73歳 |
首の凝り | うがいがしづらい。 | |
症例3 55歳 |
首から左肩にかけての凝りと痛み | 左腕を挙げると痛む。 首にストレスを与えると手のシビレ増悪。 |
頭重感、両手のシビレ、腰の痛み、ふらつき、耳鳴り、全身のだるさ |
症例4
26歳 |
右肩の凝り | 右肩、肘に痛み。 寝返りが打てない。 右肩を外に挙げると痛い。 |
肘に痛み |
この4症例ではほとんどの患者さんが首と肩の凝りを訴えて来院されています。
ちょっと変わったところでは、症例4の26歳女性は肩の凝りは訴えていたのですが、首に関しては自覚症状がなく、首のことを指摘しても最初は納得されませんでした。
動きを見ると、首を動かすとほとんどの人が何らかの症状を訴えています。
これは症例4のひとも例外ではありませんでした。首を後ろに反ってもらうと肘の痛みが強くなったのです。
これは首から肩や腕にかけて神経が伸びていることに起因しています。
つまり、首を傷めると神経に沿って痛みやシビレが出現することがあるのです。
そして注目していただきたいのが、首以外の周辺症状です。
頭痛、腹痛、手のシビレ、腰痛、ふらつき、耳鳴り、全身のだるさ、肘の痛み、などこれらは、一見すると首とは関係なさそうな症状ばかりです。
頚椎は背骨の一部分です。背骨は頭を支えて、頭の重みを骨盤に伝える大事な役割りがあります。そのために25椎の背骨は一つ一つが独立しつつも統一した動きをしないといけないわけです。その統一した動きを出すために脊柱起立筋と総称される背骨を支える筋肉があります。この筋肉は頭から始まって骨盤の仙骨まで伸びています。
筋肉はこの出発点と終着点に神経のセンサーがたくさん張り巡らされており、それによって筋肉の状態を脳がコントロールするように出来ています。
ここには自律神経もたくさん入ってきています。
首を傷めると一見まったく無関係に思える症状が付随して出てくるのはこういう理由があるからです。
頚椎は全部で7つあるので、損傷した部位によって自律神経症状も違ってきます。
背中に近い下部頸椎を傷めると肩甲骨まわりや肩腕に症状が現れやすくなり、頭に近い上部頚椎を傷めると目や耳、顎、頭などに症状が現れやすくなります。
そして脊柱起立筋がひとつの大きな筋肉群になっているので、首が緊張すると腰にまでその緊張が現れて、腰痛の原因にもなるのです。
こうしてみると自律神経に起因する腹痛も耳鳴りもふらつきも全身のだるさも首から来ることがあることがわかっていただけると思います。
ここでもう一度、前回最初にあげた厚労省がまとめた表をご覧ください。
ここまでの話を聞いた後で、この表を見るとここに掲げられている上位5症状のほとんどが頚椎に由来していることに気がつかれると思います。
そうなんです、単なる肩こりが実はいろんな症状を作る原因になっているわけです。
むかしのひとが「肩こりは万病の元」といった意味はこういうことだったのです。
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