前回、肩甲骨を使って股関節の痛みが取れた症例のお話しをしました。
今回は、同じ股関節の痛みが腹部の筋肉を緩めないと収まらない症例のご紹介です。
患者さんは年配の男性。タクシーの運転手さんです。休みの日にはソフトボールを楽しんでいる元気の良い方。
そのソフトボールをしていて股関節が痛くなったと来院されました。
症状は2,3分歩くとふくらはぎが痛くなり、坐っていると楽になるそうです。
こういう症状を専門用語で間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼びます。
うちにみえる前に病院にも受診されたそうですが、レントゲン検査の結果はいたって正常だったようです。
そこでは坐薬と湿布を出されましたが症状が改善しないので当院に来院されたということです。
間欠性跛行を呈する疾患は背骨の変形(脊柱管狭窄症が有名です)以外では腹部の動脈異常が考えられます。
そこで股関節動脈の拍動から足背・足底動脈まで計測しましたが異常は見当たりません。
となるとこの方も他の原因をいろいろと考えなければなりません。
動作確認をすると椅子から立ち上がり切るまでが痛い。立ってしまえば痛みはなくなります。
坐るときもいっしょです。屈み出すとひどく痛みますが、坐ってしまえば大丈夫。
痛みはお尻と、同側の下腿外側に集中しています。
お尻の痛みは大殿筋といわれる股関節を後ろに伸ばす筋肉が動いているときに出ているようです。
この筋肉が動くときに邪魔する筋肉は腹部に位置する腸腰筋。
この腸腰筋は股関節を前に持ち上げる筋肉です。
クルマのアクセルペダルとブレーキペダルに足を踏み替えるときにも盛んに使います。
長年運転手を勤めてこられたこの方の仕事からするとこの筋肉に問題があってもなんら不思議ではありません。
ためしにベッドの上で胡坐をかいてもらい、上半身を痛みのない左側の膝のほうへ倒してもらい、この筋肉をほぐすストレッチを30秒ほどしてもらいました。
すると先ほどまでの痛みが嘘のようにすっと立ち上がれます。
この方の場合は、前回お話した方のような肩関節などをいじるよりも腹部の腸腰筋をいかにほぐすかにかかっているようでした。
ここで前回までのお話をもう一度おさらいしましょう。
まず、殿筋は骨盤に付くだけでなく、その一部は背筋の筋膜の上に付いています。
胸腰筋膜と呼ばれ首までのびるこの背筋の筋膜は、さらに外側の広背筋やさらには腹横筋というお腹側の筋肉にも繋がっています。
最近の解剖学研究者によると、なんとこの殿筋と繋がる腱の一部は骨盤の外側から先ほど出てきた腿を持ち上げる腸腰筋とも繋がっていることがわかってきました。
ですから、股関節が痛いという患者さんを診るときは骨や関節の状態だけでなく、殿筋の状態はもちろん、背筋や広背筋や脇腹の腹横筋の状態、さらには腸腰筋という腹部の奥に位置している筋肉の状態も考慮する必要があるということになります。
昔から「からだはひとつなんだ」と東洋医学では言われてきましたが、こうやって現代医学的にも具体的に見えてくると不思議さでいっぱいになり、「やっぱり人体はすごいなあ」と感嘆の声をあげたくなります。
そして今の僕はもっと人体を理解したいと切望します。
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