先日、患者さんと会話していて、
「先生、私の膝の痛みは、骨と骨の間にある軟骨が硬くすり減ってしまうために骨同士がぶつかって、痛みとなってるんですか?」
「それとも、やっぱり年齢とともに生じる筋肉の低下や血流の悪化により筋肉が硬くなり、神経を圧迫することで痛みとなってるんでしょうか?」
この説明って皆さんのなかにも聞き覚えがある方もいらっしゃるのではないですか?
そうです、この患者さんはある医薬品のCMのナレーションを空で言えるほど完璧に覚えて僕に訊ねて来られたのです。凄い刷り込み効果です。
まず、最初の文章は、一般人が聞くとわかりやすく納得しやすい説明ですが、実際には骨に知覚神経が存在しないために間違いであることが証明されています。(『長引く痛みの原因は、血管が9割』奥野裕次 ワニブックスPLUS新書 p125参照)
2番目の文章は間違いではないのですが、これは神経痛を引き起こす原因のごく一部分の説明でしかありません。神経痛を引き押す原因とされているものは非常に多く、はっきりしているものだけでも35種類ほどあります。この文章では誤解を招きかねず、大雑把すぎます。まして、この方の膝の痛みは神経痛ではないので、当てはまりません。
そもそも人間にとって「痛み」は生命を維持するためにとても大事な感覚なのですが、痛みがどこから来ているのかを知ることが実は現代医学でもとても難しいのです。企業が自社の商品を買ってもらうために作ったCMを医学的な情報と混同しないことが大切です。
現在、特に慢性疼痛と呼ばれる「痛み」は身体の柔らかい組織にその原因があることがわかってきています。これまではレントゲンやMRIで画像的に骨や脊髄を中心に診断してきましたが、柔らかい組織である皮膚や脂肪体、筋膜骨膜という薄い膜、さらには関節の動きなど従来の診断装置ではわからないものに検査するフォーカスが移ってきているのです。そのために運動器の専門家ではない放射線科の医師などこれまでと違うジャンルの先生たちもこの「痛み」の正体を解明するために尽力しています。
冒頭の患者さんの膝も半月板や骨の変形が痛みの原因ではなく、この柔らかい組織の炎症を治療することで痛みと腫れが取れ、見事に歩き方が良くなってきました。
こうした「痛み」の本当の原因を探る研究は、今日本はもちろんアメリカやヨーロッパでも盛んに行われていて、そういうムーブメントを知ることは僕にとってとても楽しい刺激になっています。
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