現在の東洋医学の基礎は、中国最古の医学書と言われる『黄帝内経』に依拠しています。
その歴史は紀元前にさかのぼりますが、このころの本はまだ木簡や竹簡が主流でした。そのため字数にもかなりの制限があり、当然省略される文章も多く、初めて読むと全文暗号のような象徴的な文章になっています。
僕たち鍼灸師も学生時代にこの古典を学ばされるわけですが、現代医学も徹底的に学ばされるため、そこに象徴的な表現の東洋医学の生理学を学ばされると正直頭が混乱してしまいます。
今臨床家となって人の身体の不思議さを体験し、さらに21世紀に入って現代医学が新たにわかってきたこととこの古典に書かれていることが符合している事実を知るにつけ、改めて先人たちの凄さに畏怖せざるを得ない気持ちです。
とは言え、東洋医学は本当に理解することが難しい。
たとえば、「命門」という臓腑。命の門と書くくらいですから生命の根源に関わるような重要なところです。位置は脊柱上、第2腰椎棘突起(背骨の上をなぞっているとゴツゴツ指に触れる出っ張りのこと)の下にあるとなっています。ここに父母からもらった先天の精があります。五臓の働きによって生まれた五臓の精は一部が「腎」に集められ、そこで「特別な腎精」となってこの命門に送られます。そして先天の精の力によって全身の基本的物質のひとつである「陰陽」となります。この「陰陽」は生命維持の環境を作るとして寿命の決定にも関わるとされています。この文章から「命門」が大事なのはわかりますが、そんな臓器も存在しないし、いったい身体のどこの話なのかさっぱり分かりません。
しかし、ツボの位置にある脊髄骨を機能で考えると、身体を真ん中で支えるだけでなく、死ぬまで造血器官としての重要な役割があることに気がつきます。
その骨髄にある多能性幹細胞は、多種多様な血液成分を作る大本を作り出します。やがてそれらが赤血球や白血球や血小板になっていくわけです。
ということは、五臓の腎の働きを説明している中で出てくるこの「命門」は、実は臓器の働きではなくて、骨髄の働きのことを解説していたということになります。
木簡だった故の難解さ。東洋医学はまだまだ難解で神秘的です。
*)表紙の写真は、黄帝内経と同じ漢方の古典「傷寒論」の木簡レプリカです。
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