先週は漢方独自の概念「命門」についてお話ししました。
なんで急にあんな話を書き出したのかというと、診療中にした患者さんとの会話がきっかけです。そのなかで西洋医学の最先端の研究と元々東洋医学が唱えていた説がここに来て一致してきている話に及んだからです。
僕はこういう不思議な話が大好きなのでもう一話だけお付き合いください。
先週お話しした「命門」には、「陰陽」という身体の基本物質を作り出す機能のほかに、もう一つ大事な働きがあります。それは「天癸(てんき)」と呼ばれる生殖機能を促成する物質を作り出す働きです。ひとが成長し、全身の機能が充盛して来ると、この「天癸」が命門で生成され、腎に送られて女性では月経し、男性は精子が産生されるというのです。
これを現代医学的に考えると、脳の視床下部の働きを指しています。視床下部とは、脳のほぼ中央に位置し、呼吸や血管運動などの自律機能を調整し、睡眠、摂食、飲水、性行動、さらには怒りや不安などの情動行動まで調節する非常に重要度の高い中枢です。
↑(赤く塗られた箇所が視床下部)
男女ともに10代に入るとこの小さな視床下部から「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」と呼ばれるホルモンが生成放出されて、卵巣・精巣に働きかけられ、第二次性徴が始まります。
つまり「天癸」とは、このホルモンを指していることになります。
「天癸(てんき)」の「癸」は種子とか、雫を意味します。
この文字は「みずのと」とも読みます。「水の弟(みずのと)」とは、水=腎を意味し、弟は陽陰の陰を意味するので、身体に当てはめると腎中の陰つまり腎精(腎から作られたエキス)を意味します。
それが「天」に位置しているわけですから、天癸とは「頭部の腎精」となります。昔の人がどうやって第二次性徴を促すホルモンが脳から放出されていることを突き止めていたのかわかりませんが、たった2文字で見事にそのシステムを言い当てていたことが驚愕です。
ネットで命門を検索すると、その名前からかおかしな解説をしているものが多いですが、命門本来は骨髄の血の生成を刺激し、それによって免疫力を高め、さらに脳脊髄に対しては自律機能の調整を高めるところと考えたほうが良いと思います。
現代の僕たちが、古代の人の言葉をこれまで以上に理解できるようになったなら、今よりももっと良い治療がその先に待っているような気がしてなりません。
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