桜の花が終わって今度は新緑が目に優しい光を届けてくれる頃合いになりました。本当に外に出るのが楽しい季節ですね。
今日は先週お伝えしたトレーニングの基本でありもっとも大切な「緩める」ことを診療で実践し、すばらしい効果を出していらっしゃる整形外科医の太田邦昭先生の取り組みをご紹介したいと思います。
前回お伝えしたようにどんなひとでも元気な身体を長く維持するためには身体を動かすための筋肉が必要です。筋肉は使わなくては衰えます。しかし、日常生活や仕事などで固まった身体をむやみやたらに動かしていては身体は歪んだ状態で筋肉を付けてしまいます。これでは怪我に繋がり元も子もないわけです。ですから身体はまず緩めるところからスタートしなければいけません。
また怪我からの回復でも同じです。骨折などで固めていた関節は動かして緩めてあげないと元のように動かなくなってしまいます。
そこで、腰椎の圧迫骨折などで身体が曲がってしまった患者さんの姿勢を何とか良くする方法はないかと整形外科医の太田先生は姿勢矯正体操というものを考案され実践されているそうです。
体操といってもやることはたったの2つ。
一つ目は、うつぶせ寝の状態から肘を立てて上体を起こしたまま5秒キープ。5秒たったらまたうつぶせ寝に。これを5回繰り返すだけ。背骨が固まっていたり、肩が痛くてこれが出来ない人にはお腹の下にクッションを入れてそれで体を支えてもらい、上半身を起こした状態を1分キープするだけでもよいそうです。
二つ目は、あおむけになってもらい膝を立てた状態で上半身を起こすいわゆる腹筋運動です。これもたったの5回。これは相反抑制と言って腹筋を収縮させることで背筋が緩んでくるという身体の特性を利用した運動です。前屈みになっている人は身体を後ろから支えるために背筋が硬くなっているのです。これを緩めるために行います。
つまりこの二つの運動は背骨の前と後ろを緩めるためのものと言えます。
これだけを患者さんに指導し実践してもらうことで太田先生のところに通っている患者さんは驚くほど姿勢がよくなっています。
写真をご紹介できないのが残念ですが、腰椎圧迫骨折の患者さんや骨粗しょう症の人、脊椎すべり症の人、さらに膝が曲がってしまう変形性膝関節症の人まで驚くほど姿勢がよくなり症状が改善しています。
さらに背中が丸くなることで顔が前につき出てしまう首下がりと呼ばれる現象も改善しています。
実は腰椎の圧迫骨折後の姿勢変化は腰椎の形が変わってしまう器質的な変化であるために避けられないものだと医学的には考えられています。僕もいままでそう思ってきました。ところが太田先生が発表した写真はそんな従来の思い込みを見事に払しょくしてしまうものだったのです。驚愕に値します。
さらに先生は、姿勢の変化だけでなく運動能力についても統計学的に調べていらっしゃいます。これまでの研究で歩行速度が速いほど身体機能が保たれるために心臓疾患や脳血管障害になりにくく、認知症にもなりにくいということが分かっています。この歩行速度を本体操を行ったひとがどうなったかを調べたわけです。p値0.05以下で改善がみられていました。この数値は100人同じことをしたら95人以上のひとに同じ効果があるといえるという数値です。対象群となった人数は一つの診療所でやっているとしたらおそらく小規模の人数(100人を超えない)と思われますが、それにしても評価するのに十分な数値だといえます。つまり、緩めることで身体が使えるようになり筋力がアップしていることになります。
先生はこうした運動をあらゆる世代の人に指導していらっしゃるようです。10代の患者さんにも同じ体操を指導してスポーツで怪我してきた子たちの症状改善につなげていらっしゃいました。先生の研究を読むと従来スポーツの特殊な怪我だと思われてきたものまで実は体幹の筋肉のゆがみが原因だった可能性があります。これは今後当院でも是非検証してみたいと思っています。
今回の太田先生の取り組みはトレーニングとは「緩めて鍛えて使えるようにする」ことだということを改めて認識させられる好例でした。
体を動かしたくなる季節、みなさんの姿勢改善、スポーツのパフォーマンス改善、日常生活の向上に参考にしてみてください。
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