この耳慣れない「上殿皮神経」というのは、腰骨から臀部にかけての皮膚のすぐ下を走行する神経で、ここが障害されても腰のあらゆる動きで腰痛が強くなります。
どんな時に痛むかというと、
・からだを反る
・横に倒す
・ ねじる
・立ち上がる
・座る
・長時間立つ
・長時間座る
・歩く
・寝返る
・前屈みでも痛みが強くなる(前屈みでは大丈夫という報告もあります)
などほとんどの動きが該当します。
さらに、坐骨神経痛のように腰から足先まで痛みやしびれが出る人もいるため、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症と見間違える場合もある厄介な疾患なのです。
鑑別診断も難しいのが現状です。神経線維そのものが直径数mmの細さであるために、レントゲン、CT、MRI、脊髄造影、骨シンチなどの画像では診断できません。臨床症状と圧痛ポイントが頼りになります。
そこで当院では超音波画像検査を使ってこの皮神経とその周辺の組織を観察しています。上殿皮神経は柔らかいラフスと呼ばれる軟部組織によって支えられています。
痛みが出ている患側と健常な反対側でこの部分を比較すると、このラフスが腫れていることが多いとわかってきました。このことは先行研究でも同じ報告があります1)。
まだここが腫れていることが原因なのか結果なのかはわかっていませんが、皮神経障害を疑う根拠にはなりそうです。ですからこういった所見が得られれば、当院では上殿皮神経に対しても治療を試みるようにしています。
腰痛全体のなかで、この上殿皮神経障害の占める割合は意外に多く、12%から15%もあったという報告もあります2)。
いろんな検査をしたし、いろんな治療を受けたけど痛みが変わらない、わからない腰痛を抱えたときは、こういった疾患を疑ってみると良いかもしれません。
1)Emis MN, Yildirim D, Durakbasa MO, et al. Medial superior cluneal nerve entrapment
neuropathy in military personnel; diagnosis and etiologic factors. J Back Musculoskelet
Rehabil. 2011; 24: 137–44.
2 ) 國谷 洋,青田洋一,中村直行,他.上殿皮神経の絞扼によると考えられる腰・下肢痛の調査.J Spine Res. 2011;2: 1032–5.
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