はり灸の不思議な治療 痛いところの反対側を使う?

 当院で、よく使う治療法のひとつに、巨刺(こし)繆刺(びゅうし)という技法があります。

 

 サッカーのゴールキーパーをしている高校生。左胸をゴールポストに強打して傷めてきました。画像を撮ってみましたが、骨膜が傷ついているだけで、幸いなことに骨折はしていないようです。

 

 ただ、ぶつけたところの痛みは相当のようで、軽く押すだけで痛がります。

 骨の打撲という意味の「骨挫傷」という表現がぴったりのような症例です。

 当初は患部へ治療を加えて、痛みの軽減を図りました。

 

 順調に回復して、運動するには問題ないレベルにまで落ち着いたのですが、そこからが治らない。

 患部を圧迫するとやっぱり痛みます。

 そこで、最初に書きました巨刺(こし)繆刺(びゅうし)をやってみることにしました。

 左側の傷めたところと全く同じ場所を右側の胸に取り、そこにお灸をしていくのです。

 始めてからわりとすぐに痛みが和らぎ出しました。お灸を重ねていくと痛みは半分以下になりました。

 この治療法、けがの強度によって回数は異なりますが、強い神経の痛みにはよく効く治療法です。

 

 実はこの療法、なんと2千年以上前に書かれた鍼灸の聖典『黄帝内経』という本に出てきます。

 

 神経が興奮しているとき、そこにさらに治療を加えると余計痛くなることがあります。

 そういう時にこの治療法がとても有効なのです。

 

 「シーソー現象」と呼ばれて、脊髄反射のひとつと考えられていますが、まだまだ体には不思議がいっぱいあるのです。



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