知れば知るほど不思議に思えるのが「身体」です。今回のお話はそのなかの「股関節」。なぜ今回股関節を取り上げたかと言うと僕が一番不思議に思っている関節だからです。
何が不思議なのか。うまくご説明できるか不安ですが、これをご説明するために身体の中での「骨の役割」についてまず簡単にお話しさせてください。
「骨」は身体の中で2つの大きな役割を任されています。1つは「支持組織」としての役割。文字通り身体を支えるために必要な仕事です。そしてもう1つが「造血器官」としての役割です。
人間が海の生物だった頃は脾臓を中心に臓器で血を造っていたのですが、陸上に上がると「重力」に押しつぶされたために内臓器より丈夫な骨の中で血液を造るようになります。そのおかげで両生類から四つ足動物、そして二本足へと陸上での活動を広げることができたわけです。これは胎児の中でも忠実に再現されていて、生まれる以前は内臓器で血液を造り、出産前に骨の中で血液が作られるように準備されて出てきます。地上での生活が始まる出生から20歳前後までは下肢の骨を中心に造血し、その後は背骨を中心に血液は造り続けられます。これが骨が担う重要な役割です。
ここで股関節の登場です。大腿骨を思い浮かべてください。長い幹の部分と両端に丸い関節部分で出来ています。長い幹の部分は硬い骨で出来ており、支持組織としての役割を担っています。反対に股関節を構成する大腿骨骨頭は球状で軽い海綿体組織で出来ています。この中は血管が豊富で造血器官としての働きを任されています。つまり股関節は下肢を体幹に繋ぐ役割だけでなく、造血器官としての役割も負かされている重要な関節なのです。二足歩行の人間の股関節は大変な役割を担っているわけです。
「造血」というのは赤血球や白血球も含んでいます。白血球はご存知の通り「免疫」の担い手です。そういう意味で股関節は免疫の要ともなります。
こうした側面から股関節を眺めてみると実にいろいろなことが見えてきます。
5歳くらいから10歳くらいまで男児に多いとされるペルテス病。突然股関節の骨頭が壊死してしまう病気です。原因は過度の運動だったりしますが、先に申し上げたように生まれてから20歳前後までは造血器官として活発に働かなくてはいけない股関節。肉体的にもまだまだな時期に身体的ストレスが強ければ破綻が来るのも致し方ない気がします。
中年期以降の女性によく見られるのが骨形成不全症と変形性股関節症。出産を経て子育てにひと段落ついた頃に股関節が痛くなる人が多いようです。骨形成不全とは股関節の骨頭を包み込む骨盤側の骨が十分出来上がっていないというものです。でも子供のときは痛くなくて大人になって痛くなる人が多いのはなぜでしょうか。うちで診た患者さんたちは体重も平均的な方たちばかりです。もうひとつの変形性股関節症は骨頭の変形です。レントゲンで見ると球状の形が崩れて空気の抜けたボールのようにひしゃげてしまう人もいます。僕はこれらの疾患の多くに免疫機能としての股関節の役割がかかわっている気がするのです。
免疫器官は肉体的に精神的にストレスを受けると血流量を上げて活発に働くことが確認されています。ストレスと戦うためです。血流量が上がった組織は当然腫れて熱を帯びます。運動器の部分で腫れが強くなれば体重を支えたときに当然痛みます。
今現在、股関節は「支持組織」の運動器としての側面からのみ研究されており、僕が申し上げたようなことはおそらく誰も研究していない話しです。ですから今申し上げたようなことは僕だけの思いなのですが、そういう観点で治療していくアプローチを持つと股関節の治療は実に幅が広がります。股関節だけを無理やり動かすのではなく、心身全体に受けているストレスを探してそこを取り除く治療をしていくというアプローチです。
今までの症例では首に傷害を受けているひとに股関節の痛みを訴える人が多いです。必ずそうではないので、あくまでも「多い」というだけなのですが、首の傷害は人体へのストレスが強いのかもしれません。変形性股関節症や骨形成不全症と診断されているにもかかわらず、首の治療で痛みが取れ、そのおかげで手術せずに要観察となったひともいます。
股関節の痛みは実に様々な要因で起きるので、これまでお話しした骨だけの問題では決してありません。骨以外にも筋肉や靭帯、腱という組織に問題が起きていることも多々です。むしろ圧倒的にそちらのほうが多いです。ですから股関節の検査は豊富な知識と検査法の熟練を要するものと考えています。そのうえで「人体」の不思議さを毎日体験している僕はある意味すごく幸せで、おかげさまで診療に飽きたことがありません。
皆さんがこんな話からご自分の身体についてご興味が沸き、「自分も股関節や身体をいたわってストレッチしてみようかなあ」なんて思っていただけたら望外の喜びです。
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