外反母趾は足の親指の付け根が痛くなり、ひどいと付け根が外に飛び出したように迫り出し、親指の先はとなりの人差し指と重なるくらいになる人もいます。
この外反母趾は従来から靴のせいにされています。「ヒールのある靴はよくない」「つま先が狭い靴が原因です」と言われてきたのです。いまでもネット上はこの説明です。でも本当にそうなのでしょうか。
僕もこのように学校や医学書で教わって卒業したのですが、臨床に入ってすぐ従来の説を疑いたくなるような患者さんに出会ってしまったのです。
患者さんはお花屋のおばさんでした。この方の親指が腫れて付け根が変形し曲がってしまっていました。レントゲン検査と血液検査で外反母趾と他院で診断されてきたので、外反母趾は間違いないのでしょう。ただ履物のことについて伺うと、毎日水を使うことから年がら年中ゴム長靴を履く生活を若い頃からずっと続けてきたというのです。長靴ですから先が細いということもないわけです。先が細いのもヒールのある靴も持っていないそうです。
一方、僕の同級生で9センチのヒールの靴しか持っていないし、履かないという女性がいました。彼女はどこに行くにもその靴先の狭いヒールで来る徹底ぶりで筋金入りのヒーリスト。花屋のおばさんの件があって以来気になっていたので、その子に頼んで彼女の足先を見せてもらったのですが、これが全然曲がっていません。綺麗な指先でした。
この二人の足先以外にも外反母趾の女性を診るたびに靴先やヒールの話を聞いたのですが、皆さん総じてそんなにヒールの高い靴を履く人はいない傾向でした。「若い頃は履いたけど今は履かないわ」という女性が圧倒的に多い。「これはどういうことなのか。」いろいろな文献を読みましたが、どれもこれも靴のせいにしており、指先を広げるような装具や、格好は二の次の幅広の靴を推奨しているのです。中には足指を使わない現代生活が原因だとして靴を否定し、下駄や素足がいいとまじめに言っている先生もいました。
アメリカには足の病気だけを見る専門医「足病医」というお医者さんがいます。その一人ハリー・ラバック氏が書いた『The Foot Book』という本が日本語訳されて刊行されていることを知った僕はその本に一縷の望みを託してさっそく取り寄せて読んでみることにしました。そこには僕の疑問を見事に解消してくれる内容が書かれていたのです。
彼の視点は従来の説と全く異なるものでした。足の問題を解くには「踵」の位置が重要だというのです。
足の構造はかかとを中心に出来上がっている。人を後ろから見たとき、膝から下の下腿骨の軸に対してかかとが外に大きく「くの字」のように出ていると足の病気が発生しやすくなる。これが彼の説です。つまり、踵をしっかり固定できないと外反母趾になりやすい足になるというのです。
人の骨格は大きい骨に体重を載せるようにできています。足で言うと踵の骨です。ここと親指と小指の三点で体重を支える構造になっています。この3点のちから配分も当然大きい順です。そうなるように足は出来ているのです。このかかとにしっかり体重が乗っているとき、かかとは理想の位置(下腿の骨の軸に対して若干外に開く「くの字」)に来ます。横から足を見ると、土踏まずがしっかりとした縦アーチを形作っています。正面から見ると足の甲が少し盛り上がった状態の横アーチが確認できます。これが理想の足の状態です。
この状態で立っていただいて、そのあと身体を左右どちらかに捻ってみましょう。曲げた方向と反対側の膝が曲がり、曲がった膝の下にある足首はかかとが外に押し出されて親指側に体重が乗っていることがわかります。さらにその足のアーチを観察してみてください。縦も横もつぶれて扁平な足になっていませんか。これが外反母趾を作るメカニズムだったのです。
さらに膝や股関節の状態も見てください。膝も股関節も多少曲がっていると思います。足関節と膝、股関節は一緒に動く関節なので3箇所ともまがってしまうのです。これは膝や股関節にも負担のかかる姿勢です。次第に膝や股関節を痛める可能性が出てきます。
このように外反母趾が生まれるメカニズムは母指だけに通用するものではなく、足首やかかとの痛み、足の指の付け根の痛み、疲労骨折、脛が痛むシンスプリント、膝痛、股関節痛など下肢の痛み全般に影響するものだったのです。
この身体にいつの間にか出来た捻りを見つけて取ってあげるのが最善の治療になります。
彼の説を自分の足や実際の患者さんで毎日のように検証し、さらにほかの文献と照らし合わせても矛盾するところが今でもありません。むしろ新たなバイオメカニクス理論とも一致することばかりです。やはり、ヒールの高さや足先の細い靴が問題ではなかったようです。
最近はバイオメカニクス(関節運動学)の研究から股関節から骨盤までを含めて足関節の動きを正す骨盤を使ったAKA博多法治療を当院では取り入れるようにしています。それが捻りを治すために遠回りのようで一番の近道とわかったからです。
今日この話しをしたのは、先日若い女性が足の母指の痛みについて質問されたのがきっかけです。一人ひとりにはご説明しているのですが、もっと他の人たちで知りたい方がいるのではと思いまとめてみました。ネット上では初公開です。
僕の20年の診療のエッセンスみたいな話しです。「三勝はり灸接骨院に行ったら鍼は痛いけれど、気持ちが楽になった。」と言われるように毎日少しでも皆様の身体が良くなるよう祈っています。
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