いま、肩関節の痛みで来院されている患者さんが本当に多いです。
そのなかで、一番多いのは五十肩といわれるタイプの症状です。そしてみなさん、事情は違いますが、本当に困っていらっしゃる。「治るのかな」「何で治らないのかな」「どのくらいで治るのかなあ」疑問は尽きません。以前にもこの疾患を取り上げているのですが、今日はみなさんに五十肩がこれだけポピュラーでありながら、なぜ分かりにくいのか、なるべく具体的にしかも臨床を通して僕自身が感じていることをご説明してみたいと思います。
五十肩様の症状を抱えて来院される人は多いのですが、この中に癒着性肩関節炎(凍結肩)という本当の意味での五十肩のひとは実はほとんどいません。それ以外の疾患、肩峰下滑液包炎、腱板炎、石灰沈着性腱板炎、二頭筋長頭腱炎、さらには腱板断裂や、スポーツで傷めたリトルリーガーズショルダー、ルーズショルダー、スイマーズショルダーなどが大半です。これ以外にも肩関節唇損傷という疾患もあります。スラップ損傷、バンガード損傷、ベンネット病変、上げたら切りがありません。
これだけいっぱいある疾患をうちでは徒手検査と超音波画像で徹底的に調べて鑑別し臨床診断します。何故なら一つ一つの疾患で治療期間も治療方法も異なるからです。何を治そうとしているのかわからずに治療を進めることほど恐ろしいものはなく、治癒を遅らせるだけでなく、病変をひどくすることもあります。
こうして、当院ではかなり具体的に病態を把握したうえで治療に取り掛かるわけですが、それでも治りづらいのがこの五十肩様の症状です。
最近いらした患者さんの肩は画像検査で見てみるとほとんどきれいな状態でした。ですが、この方はもう半年以上も肩が動かない状態です。徒手検査をしてみると前鋸筋と大円筋といわれる肩関節を前方に引き出す筋肉が硬くなり、動かなくなっていることが判明。この筋肉はいわゆる五十肩の症状を作る代表的な筋肉として知られています。しかし、レントゲンやMRIなどの画像診断では骨や関節の間にある隙間などに起きる病変は見られないために判断できません。触らないとわからない病態なのです。
この患者さんの場合は、上記の病名ではどれも当てはまらない感じです。表に出ている症状で判断すると一番近い疾患は癒着性肩関節炎。画像から判断したらいいところ初期の肩峰下滑液包炎です。
こういう症例から、画像検査は非常に貴重な情報を与えてくれるのですが、それだけで病態の判断は出来ないことを僕たちは学ぶわけです。そしてさらにほかの疾患も想起することになります。他科の疾患です。
五十肩とくに凍結肩と言われる疾患は糖尿病と関係が深いと言われています。糖尿病は肩関節だけに限らず、運動器疾患を誘発することが多々あります。何故なら糖尿病は血液の病気だからです。血管が豊富な運動器は障害が置きやすいわけです。この患者さんが糖尿病かどうかはまた別の医療機関に行っていただかないと分かりませんが、一応そのことも頭に置いて治療していく必要があります。
腕は一本約4キログラムあると言われています。4キロのノートパソコンはありませんが、そんなものを抱えているのかと想像していただくと肩にかかる負担が分かりやすいかと思います。肩関節は骨同志で結合している面積が小さく、ほとんど筋肉で出来ている関節です。そのおかげで動かせる範囲が広いわけですが、逆に言うと筋肉に依存しているため、その筋肉を傷めると4キロの重みが負荷になってなかなか治らない。さらに身体の外にある関節なため、筋肉は外的なストレスを受けやすく、そのために修復がまた遅れる。
肩関節は身体の前方に移動させると力が入りやすくなります。格闘技やボクシングのパンチが肩甲骨を前に出すと破壊力がアップする理由です。ですが、この状態は筋肉が関節を固めるために可動範囲は狭くなります。胸を張るように肩を後方にもってくると力は入りにくくなりますが、可動範囲は広がります。猫背のように肩を前に入れた状態や、逆に後ろに引いた状態で、腕を上げてみるとその違いがすぐに分かります。つまり、前で行われている日常生活すべてが肩関節の動きに負荷をかけていることになります。同じ姿勢が長いと可動範囲が狭くなるのは道理です。
こういった肩関節の構造上のことや日常生活の状態を考慮し、さらに内科疾患も影響している可能性も認識すると肩関節の疾患が抱えている複雑な問題がいろいろ見えてきます。五十肩が分かりにくいのにはこのように様々な原因が複雑に絡んでいるからです。
当院では、こういったことを患者さんに理解していただくために画像だけでなく、模型なども使ってご説明しています。一度聞いても分からないと思います。自分の症状が分からなくなったら何度でもご説明しますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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